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東京地方裁判所 昭和56年(刑わ)516号 判決

主文

被告人を懲役六月に処する。

未決勾留日数中一〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  阿部貴志らと共謀のうえ、昭和五五年一二月一日東京都台東区台東一丁目二九番地四号所在大人のおもちゃ店「ダゲール」において、鶴見源作に対し、女性の陰部を露骨に撮影したサービス判カラー写真九枚(昭和五六年押第三七六号の一)を、ほか一枚の写真とともに二、五〇〇円で販売し、

第二  吉岡英雄らと共謀のうえ、昭和五六年二月一四日前同所において、販売の目的で女性の陰部を露骨に撮影したサービス判カラー写真九九〇枚(同押号の二ないし一一)を所持し、もつて、わいせつ図画を販売するとともに販売の目的をもつて所持したものである。

(証拠の標目)(省略)

(累犯前科)

被告人は、(1)昭和四八年五月二一日東京地方裁判所で猥褻文書等販売罪等により懲役一年に処せられ、昭和五一年六月二四日右刑の執行を受け終わり、(2)その後犯した同罪等により昭和五三年三月一七日、同裁判所で懲役二年に処せられ、昭和五四年九月一八日右刑の執行を受け終わつたものであつて、右各事実は検察事務官作成の前科調書および関係判決書の謄本によつてこれを認める。

(弁護人の主張に対する判断)

一  憲法違反の主張について

弁護人は、刑法一七五条は憲法一三条、二一条および三一条に違反し、違憲無効であるから本件は無罪である旨主張する。

しかしながら、憲法一三条の保障する私生活上の自由ないし幸福追求の権利も公共の福祉による制約を免れないものであることは、同条の明文の示すところであり、一方刑法一七五条のわいせつ図画等は、これを見る者の好色的興味をそそることによつて、その正常な性的羞恥心を害し、社会の健全な道徳的秩序を退廃に陥し入れるおそれのあるものであるから、このようなわいせつ図画等から健全な性生活に関する秩序ないし風俗を守るためその販売等の行為を禁止、処罰することは国民生活全体の利益に合致するものである。同法条は右のような公共の福祉の見地から設けられた合理的な制約にほかならないというべきであるから、憲法一三条に違反することはない。

次に、刑法一七五条が憲法二一条に違反するものでないことは、最高裁判所の累次の判例((1)昭和三二年三月一三日判決・刑集一一巻三号九九七頁、(2)同四四年一〇月一五日判決・同二三巻一〇号一二三九頁、(3)同五五年一一月二八日判決・同三四巻六号四三三頁など)の示すとおりである。

さらに、刑法一七五条にいう「わいせつ」の概念内容は、「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」(前記(1)などの判例参照)を指すものであつて、その構成要件が不明確であるとはいえないから、憲法三一条に違反するものでもない。

また弁護人は、刑法一七五条が合憲であるとしても、それは罰すべき対象を(イ)他人の見たくない権利を害する行為、(ロ)未成年者等に対する教育的配慮のない行為に限定して解釈すべきである旨主張するけれども、前述した同法条の目的からしてかような限定を付して解釈すべき合理的理由はないのであるから、この主張も採用できない。

二  本件各写真のわいせつ性について

本件各写真は、すべて陰部・陰毛が透けてみえる下着のみを着用した女性がことさらに股間をひろげている姿態などを撮影したものであり、被写体(モデル)の姿勢およびカメラアングル等に徴すると、これら被写体の陰部付近をとくに強調しているものであつて、そこには格別の芸術性・思想性も窺われず、全体的にみて、各写真はいずれも主としてこれを見る者の好色的興味にうつたえるものと認められ、わいせつ性の内容が時代に応じ社会情勢に従つて変遷しているとしても、現在の健全な社会通念に照してなお前記判例のいう「わいせつ」の概念に該当するものといえる(前記(3)の判例参照)から、本件各写真はいずれもわいせつ性を有する。

(法令の適用)

被告人の判示所為は包括して刑法六〇条、一七五条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、前記の各前科があるので刑法五九条、五六条一項、五七条により三犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち一〇日を右刑に算入することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする(求刑懲役一〇月)。

よつて、主文のとおり判決する。

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